『つくられた格差』



『つくられた格差 不公平税制が生んだ所得の不平等』エマニュエル・サエズ, ガブリエル・ズックマン他著はアメリカの、めちゃくちゃクレバーな学者たちが誠実な態度でいまの社会の問題点(特に格差を加速させる「税制」について)を鋭く突いた本。2年くらい前出たかな。朝日も読売も書評で取り上げてる。

こういう本はいくらでも類書がある。よく、国は金がない。財源どうする?消費税上げるしかない、とか、公務員を減らすべきだ、とか言う人たちがいる。こうした主張は、この本を読めばいかに間違っているかが分かる。残念ながらほとんどの政治家や、官僚、政策コンサルは、こういう本と縁がない(あっても意図的に無視している)。

制度設計に大きな影響力を持つ主体(大企業、グローバル企業、保守政治家など)は、自らの利益を最大化するために、手段をいとわない。問題は、経済成長に伴う、もっぱら隠蔽された「外部コスト」を、男性稼ぎ手の再生産や子供、高齢者ケアが行われている家庭へと転嫁されがちである点だろう。

育児には法外な費用がかかる。託児所の年間費用が幼児一人あたりに万ドルに及ぶケースもざらにある。そのため多くの家庭では、親が育児をすることになる。親といっても、この仕事を主に引き受けるのは母親のほうだ。これは事実上、政府支出の不足分を補うため、女性の時間に重税を課しているに等しい(時間は、もっとも古くからある課税対象である)。この課税は、女性のキャリアに深刻な影響を及ぼし、男女の格差を広げる。実際、アメリカの母親の収入は第一子の出産後、父親にくらべて平均31パーセント減少する。その結果、女性のほうが男性要理教育水準が高く、大学を卒業する割合も高いというのに、収入面での大きな男女格差がいまだ解消されていない。(引用終わり)

もちろん、個別企業の福利厚生意識の高まりやもとより国連のもろもろのとりくみが奏功して大企業の一部には、女性でも不利益を被らなくても済むようになってきてはいる。しかしゲームのルールとしてひろくシェアされ競争の前提として外部コストからとにかく逃れたもの「勝ち」の大きな構造はそうかんたんには変わらないだろう。 マルクスガブリエルが言うように、今の資本主義や経済のルールというのは道徳的には間違ってセットされているのだから、そのルールをきちんとやり直して、改めて市場を回していくという選択肢だって全然ありだと思う(何も資本主義終わったとかの暴論、加速主義に振り切れる必要もないということ)。

この本ではほかに、逆進性が高いという理由で、公的医療保険や付加価値税(消費税)を批判している。公的医療保険は収入に応じて、一定の割合が課税される(つまり、累進制ではない)から、その時点で逆進性が高いが、それだけではなく、ある金額以上は収入に比例することなく、絶対額で頭打ちとなる。つまり所得が上がれば上がるほど、総所得に占める保険料は安くなる。何じゃそれって話だ。消費税もそうだ。富裕層は自分の富のほんのわずかしか消費しない。何世代にもわたって富を蓄積し、そのホンの上澄みだけ消費すれば暮らしていけるんだから。一方貧困層は貯蓄に回す金はない。ほとんどの所得を消費に回さないといけない。消費税として支払う金額の、所得(や資産!)に占める割合を、富裕層と貧困層でくらべたら、いかに消費税が不道徳な税なのかは明らかだ。

ではどっから課税すべきなのかっていったらこの本の提案をしっかりみんな読んでもらいたいが、覚えている範囲で言えば、超富裕層に対しては所得だけではなく資産にも課税する。企業の売上にも、タックスヘブンにのがしたとしても内国で上げた売上に対してはガッツリ課税する。 

ほかにも縷々、やれないことはない提案が述べられている。こうしたすぐれた知見の意見も聞かず、目先の選挙だとか、企業利益、家事育児からの逃避のために本質的な問題解決に取り組まないなら、ベーシックインカム以前にもう誰も働かなくなるし、人もいなくなって終わるだけだろう。

消費税は逆進性が高いことはもう明らかである。自明とさえいえる。もういかなる立場の人でも財源として消費税導入や増税はやむを得ないと表明することはただちに不道徳かつ男尊女卑的であり、知的怠慢のそしりを免れない。

想像してほしい。女性が買う生理用品のことを。付加価値税(消費税)は彼女たちが毎月買わなければならない生理用品にも当然かかってくる。誰だって女性を『選んで』生まれてこない。なのに女性だけにこうした税金をかけるのは、差別そのものだろう。

現行の租税システムに格差をひろげるような作用(逆進性)があるとわかった以上、いま、為政者、行政担当者には抜本的な対策が求められている。それは政治的なイシューだろう。

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